【03】出家



幼くして、両親と別れる悲しみに沈んでいた親鸞は、9歳の時、出家を決意します。
そして、青蓮院の慈鎮和尚(慈円)を訪ね、得度したと伝えられています。
その際に詠んだといわれているのが、「明日ありと思う心のあだ桜 夜半に嵐の吹かぬものかは」の歌です。
“今を盛りと咲く花も、一陣の嵐で散ってしまいます。人の命は、桜の花よりもはかなきものと聞いております。明日と言わず、どうか今日、得度していただけないでしょうか”

仏教の目的は、「後生暗い心」の解決です。
人は死ねばどうなるのか。後生(死んだ後)は有るのか、無いのか、どうなっているのやら、さっぱり分かっていない、お先真っ暗な状態。この「死んだらどうなるか分からない心」を、「後生暗い心」といいます。
両親と別れ、今度死ぬのは自分の番だと驚き、この暗い心の解決を求め、比叡山に入ったのでした。

[親鸞聖人正統伝]

九歳の春、御出家なり。薙染の義は、厳父有範卿卒去の時、かねて御遺言なり。当年正月より、伯父三位へしきりに出塵の御のぞみあり。因て九歳の春、養和元年辛丑三月十五日、養父範綱卿御同道にて、洛陽粟田口青蓮院御門跡前大僧正慈円和尚の貴坊に御入室、即日出家したまう。戒師は、慈円和尚(時に二十七歳)御髪をば、権智房阿闍梨性範おろされけり。御名を範宴少納言と授らる。同年叡岳に登り登壇受戒也。ここに三千の大衆、これなん文殊の化身ならんと美談せり。慈円和尚は、天台六十二代の座主、博識明師にて、亦倭歌の達人なり。即慈鎮和尚のこと也。

[正統伝後集]

九歳、養和元年三月十五望、洛東青蓮院慈円僧正の室に入て、出家したまう。

[親鸞聖人正明伝]

九歳の春のここ御出家なり。是は先考有範卿終焉の時、かねて遺言あり。今年春の初より、十八公麿しきりに伯父三位へ薙染の請達ありければ、若狭守殿も今はちから及ずとて、青蓮院前大僧正慈円和尚の禅室にともない給て、御出家を遂らる。戒師は大僧正(時に二十七歳)、十八公麿(九歳)、権智房阿闍梨正範と申人ぞ除髪をつとめられける。御名を範宴少納言と授たまえり。于時養和元年三月十五日なり。

[御伝鈔聞書]

九歳の時まで俗ぞ。九歳の春の比慈鎮和尚の門院に入り、御かみを落し玉えり。御名範宴公、名は少納言のきみぞ。慈鎮付玉えり。天台家には惣じて公名を付ぞ。

[親鸞聖人御因縁秘伝鈔]

幼年のむかしは、青蓮院に御入室ありて、慈鎮和尚の門弟子たり。

[親鸞聖人由来]

あるとき松わか殿思召けるは、それにんげんういのならい、でんこうちょうろ、ばしょうほうまつとたとえたり。しょうじゅ千ねんのみどりもついに霜の後のつゆとなりぬ。よいにろうけつともて遊ぶいえどもあかつきはへつりのくもにかくる。かかるあだなる世の中に何に心をとめてか徒にあかしくらしなん、しかしただしゅっけとなり、ぶものぼだいをもとむらい、ことには末代のしゅじょうの、たやすくほとけになる道を尋出し、ほうを四かいにひろめんとて、御年九つの春、のりつなのきょうわかさ殿へ此由かくと御そしょう有。わかさのかみきこしめし、それは何より以てしゅしょう千万なる思いたちにて候、乍去御身は大内につかえ、くらいをすすみえいがを可極身の、何のふそくありてかとんせいあるべきぞ、とどまり給えと仰ける。松若殿はきこしめし、御じょうにては御座候え共、つたえきく、しゃくそんはじょうぼん大おうのおうじにて、おういをつかせ給いつつ、けつけいうんかくに、かしづかせ給うべき御身なれども、十九の御年おうじょうをしのび出たまい、たんとくせんによじのぼり、あららせんにんをしとたのみ、なんぎょうくぎょう十二年の大ぎょうを、おこないつとめ給い、三拾の御年終しょうがくなり給い、じゃかとはならせたまうなり。かかるためしもありあけの、やみの心に思いたちたるとうしんなれば、ひらに御ひとまたまわるべしと、てんだいさんにのぼりつつ がくもんんをきわめしゅっけとぐべきなりと、いろいろ仰ければ、のりつなきこしめし、とまれかしとは思えども、出家くぼうの心ざしをしきりにとむるものならば、五ぎゃくにもまさるべし、さらば天大さんへ引くして、じちんかしょうのでしに仕らんとて、こしぐるまをかざりたて、上下はなめきゆゆしくして、天大さんえぞいそがるる。
山にもなれば此由かくと仰ける。じちんかしょうきこしめし、のりつな殿か珍や、只今参事よのぎにあらず、是に候松若出家をのぞみ候により、貴坊の御弟子にけいやく仕らんと思い是まで参候なり。きょうこにおいてはわれわれになりかわり、世間しゅっせの御い見万事は奉頼。じちんきこしめし、其儀ならば今日はさいわい吉日にてある間、はやはや出家し給うべしとて、御かみそりをあて給う。比は人おう八十一代あんとくの御宇 永和元年かのとのうしの年、はなのさかりをそりおとしはや炭染に身をまとい、らくほつならせ給いける。しゅしょうなりける次第なり、じちん御らんじて、さらば名をつけ申さんとて、はんえんしょうなごんとつけ給う。